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若手研究者 研究紹介:筒井 雄大 (国際武道大学体育学部武道学科 特任助教)

若手研究者 研究紹介
筒井 雄大 (国際武道大学体育学部武道学科 特任助教)

 筆者の専門は武道学であり、これまで大日本武徳会に関する研究を進めてきた。ここではこれまでの研究及び今後の展望について述べさせていただく。

 まず大日本武徳会とは、日本古来の武道の普及・発展を目的として設立された近代日本における最大規模の武道団体である。明治28年(1895)の創立から昭和21年(1946)の解散まで、日本の武道を統括する団体として活動した。武徳祭大演武会や武道家表彰、統一形の制定、審判規程等は現代武道にも多大な影響を与えており、武道史において重要な役割を果たした組織である。

 筆者はこの大日本武徳会について研究を進めてきたが、武徳会に関する史料は、戦後の連合軍の影響によって不足していることが秦(1974)によって指摘されている。先行研究ではその不足を補う方法論として新聞記事が用いられてきた。その中でも、武徳会本部の所在地であった京都府の『京都日出新聞』が主として取り扱われてきた。そこで筆者は、『京都日出新聞』に加え、これまでの武徳会研究において詳細な分析が行われてこなかった『大阪毎日新聞』と『東京日日新聞』(現在の毎日新聞社の前身)を分析対象とし、武徳会創立当初の様相について研究を進めてきた。

 武徳会の活動の中でも、特に重要視された活動として「武道教員の養成」が挙げられる。明治38年(1905)に設立された武術教員養成所に始まり、武徳会解散時まで存在した武道専門学校からは多くの武道家及び指導者が輩出された。同校では、武道を通じた青少年の育成が行われていたことから、近代日本において武道が教育と結びつく上で、重要な役割を果たしたと考えられる。しかし、前述した武術教員養成所が設立される以前から全国の学校生徒を対象とした事業 (武徳祭大演武会、青年大演武会、短艇競漕会等)が行われており、この時から既に武道による青少年の育成に目が向けられていたことが推察できる。そこで筆者ら(2021)は、武徳会創設期におけるこれらの事業に着目し、具体的な活動の様相を明らかにした。その中でも特筆すべき点として、武徳会の商議員であった渡辺昇に関する事績が挙げられる。渡辺が青年大演武会の発起人であったこと、青少年の武術修行を重要視する多くの発言があったこと等を踏まえると、武徳会創設期における青少年への武術奨励を中心的に推し進めた人物として重要な役割を果たしていたことが示唆された。また、青年大演武会及び短艇競漕会における具体的な活動の様相から、武徳会が青少年を対象として行っていた活動には、武士道の言葉に代表される卑劣な行為を戒め、正々堂々と相手に対することのできる人間の育成を目指した武道による教育的な側面と、武道及び短艇競漕を通じた軍事教育的な側面の二面性があったと推察された。これらの事項は、武徳会創設期にみられる特徴の一つとして挙げることができる。

 筆者は、2022年4月から筑波大学体育科学プログラムに入学し、現在、酒井利信先生のご指導の下、学位取得にむけて研究を進めている。前述したとおり、筆者はこれまで武徳会の創設期について研究を進めてきたが、日露戦争後の武徳会については研究が不十分な状態である。

 日露戦争終戦の年である明治38年(1905)以降の武徳会は「軍事技術として実用に適する種目(射撃、馬術等)」の奨励から国民教育の手段として柔道・剣道を積極的に奨励するようになった。また、教育機関設置の前提条件に対応するため、組織の財団法人化も行っており、教育との結びつきがより強くなったことが既に指摘されている(中村,1985)。近代日本の武道史において、武道と教育の結びつきは非常に重要なポイントであるが、筆者はこの点において武徳会が、非常に大きな影響力を持っていたと考えている。戦いの技術として生み出されたはずの武術を武道として普及し、武道を教育と結びつけることによって、近代日本における優秀な武道家または教育者を輩出したことなどを踏まえると、武徳会が目指した武道の教育的価値と社会(政府・軍部)に求められた武道の教育的価値には相違があったのではないかと予想している。

 今後はこの辺りに着目し、時代が進むにつれて変化した武道の教育的価値について考察を進め、日露戦争後に国民教育の手段として位置づけられた武道が、その後国家権力と結びつき戦後禁止されるに至るまでの経緯を新たな一面から明らかにしていきたいと考えている。 

【学歴】
筑波大学 体育専門学群 卒業
筑波大学 人間総合科学研究科 体育学専攻 修了
筑波大学 人間総合科学学術院 人間総合科学研究群 体育科学学位プログラム在学中

【論文】
・岩切公治,井島章,田中守,上宇都鉄舟,筒井雄大 : 剣道試合に関する研究. 武道・スポーツ研究,1,101-109,2021.
・筒井雄大,酒井利信,大石純子 : 大日本武徳会創設期における青少年を対象とした活動に関する一考察. 身体運動文化研究,26,1,31-41,2021.
・筒井雄大,田中守,岩切公治,上宇都鉄舟 : 剣道観の相違から生まれる剣道批判に関する研究―近世剣術伝書にみられる批判的記述に着目して―. 国際武道大学研究紀要,37,15-24,2022.
・上宇都鉄舟,岩切公治,筒井雄大 : 暫定的な剣道試合・審判法における剣道試合分析. 国際武道大学研究紀要,37,25-32,2022.

 【受賞歴】
・2018年度身体運動文化学会 若手研究者奨励賞
「大日本武徳会設立当初の様相に関する一考察:新聞記事を手がかりに」
 於 大阪教育大学

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