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若手研究者 研究紹介:吉見英里 (常磐会学園常磐会短期大学 幼児教育科)


                   

若手研究者 研究紹介:吉見英里 (常磐会学園常磐会短期大学 幼児教育科)

 私の主な研究分野は身体教育学で、現在取り組んでいる研究テーマは「幼児の身体表現と社会性の発達」についてです。リズム遊びなどによる身体表現は、幼児がリズムに乗って動くことで自己を表現する機会となり、他者へと意識の範囲を広げ、心身の発達を支え幼児の豊かな活動を促すと考えられます。子どもの体力・運動能力は現在、二極化の傾向にあり、スキップや体を制御する神経系の発達に関連した身体を操作する能力の低下が指摘されています。スキャモンの発育発達曲線にみられるように、幼児期は神経系の発達が著しく、幼児の体力・運動能力の向上には調整力による動きの巧みな動作の獲得が求められています。こうした調整力の発達は、神経系機能の発達が著しく精神的身体的にも相互に高まっていく幼児の生活行動を豊かにするものと考えられます。

 幼児の基本的な運動能力の低下が問題視され、2012年に幼児期運動指針が取りまとめられています。平成29年公示幼稚園教育要領の健康領域3内容の取り扱い(2)では、20年公示より「多様な動きを経験する中で、体の動きを調整するようにすること」と2017 年の改訂で新たに追記されました。この「多様な動き」という文言は、 2012 年に策定された幼児期運動指針が基になっており、「動きの多様化」とは基本的な動きの種類を増やし、体を動かす遊びや生活経験を通して多様な動きを獲得していくことです。また「動きの洗練化」は、基本的な動きの仕方がうまくなり、ぎこちない動きから適切な運動経験を積むことによって未熟な動きが減少するとされています。こうした体を動かす遊びを通して「動きの多様化」と「動きの洗練化」の双方の経験を積み重ねていくことで、体力・運動能力が高まり、動きの円滑さを獲得します。さらに、「動きの多様化」と「動きの洗練化」の双方の経験の積み重ねは、幼児の様々な活動に対する意欲、関心を高め、周囲の環境に関わることで、社会性を育むと考えられています。このような活動は基本的な運動能力のみならず、様々な活動に対する積極性が幼児の生活行動の豊かさにつながっていくと考えられています。

 身体表現力の発達に関する一連の研究より、幼児の身体表現については年齢が上がることで運動面と社会的な発達を伴った身体表現力が高まっていくとされ、年齢にともなう同調運動として他児とのコミュニケーションの機会を広げ、動きの空間の拡大など動きの豊かさや楽しさにつながることが示されています。ここで示した動きの豊かさとは、リズム運動の実践により心と体が解放され、活動に取り組む幼児の積極的な態度を育むことに繋がること、すなわちリズムの伴う運動は、幼児の活動的な行動を促し、運動に対する関心を高めていくものと考えられています。またリズムに乗って動くことで心身の解放と活動の範囲の拡大、動きの多様化を生み、個人から集団へと他児とのコミュニケーションの機会を増やし、社会性の発達をもたらすと考えられます。こうした経験は、幼児の運動意欲を高め、タイミングよく動く経験から多様な動きへと発展し、誰かと一緒に動くことや自分の動きを誰かに表現するといった、自発的に動くことの機会を増やし、同時に幼児の他者への関心の高まりにつながります。言い換えると、幼児期のリズム運動の体験はリズムに乗って動くことでの心身の解放から、活動範囲を広げ他児とのコミュニケーションを楽しむといった動きの豊かさにつながり、社会性の発達をもたらすものと考えられます。

 これまでの研究で、幼児の身体表現は年齢とともに社会的発達を伴った同調運動として他児とのコミュニケーションの機会と動きの空間範囲も広がっていくことが明らかになりました。また、動きの豊かさに関する観察評価項目に社会性の発達に関わる項目を加え、身体表現能力の数値化を試み、その結果動きを通じて他児とのコミュニケーションを図る社会性の発達が確認され、年齢に関わらず運動能力と社会性の発達とともに、幼児の動きが豊かになっていくことを明らかにしてきました。これまでの研究で、動きを通じた社会性の発達について確認できましたが、観察評価項目についてより詳細には検討できていないのが現状です。今後は、幼児の身体表現能力と年齢にともなう社会性の発達はどのように変化してゆくのか、動き通じたコミュニケーションが幼児の社会性の発達にどのような影響を及ぼすのかについてさらに研究を深めていきたいと考えています。

吉見英里(2018年度若手奨励賞)
常磐会学園 常磐会短期大学 幼児教育科 講師

略歴

学歴 大阪教育大学 教育学研究科 保健体育専攻 修了

論文 
・Effects of a Rhythmic-Play Exercise Program on Coordination in Preschool ChildrenEri Yoshimi, Teruo Nomura, Noriyuki Kida
Advances in Physical Education Vol.11 No.2,  May 10, 2021
・A Study of Young Children’s Coordinated Movement—The Effects of a Rhythmic-Play Exercise Program on Physical-Expression Ability
Eri Yoshimi, Teruo Nomura, Noriyuki Kida
Advances in Physical Education Vol.11 No.1,  February 26, 2021
・幼児のコーディネーション運動に関する研究:リズム遊びにみられる動きの豊かさに着目して(3)
吉見 英里 常磐会学園乳幼児研究会研究会誌 VOL.36:30-43 2020
・幼児のコーディネーション運動に関する研究:リズム遊びにみられる動きの豊かさに着目して(2)
吉見 英里 常磐会短期大学紀要 = Annual reports of studies Tokiwakai Junior College  Vol.48:87-102 2020
・幼児のコーディネーション運動に関する研究:リズム遊びにみられる動きの豊かさに着目して(1)
吉見 英里,片山 陽仁 常磐会学園乳幼児研究会研究会誌 VOL.35:58-71 2019

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